『ユートロニカのこちら側』

 珍しく読んだ本をタイトルにしてしまた。

 読み始めた時には、アニメ『サイコパス』っぽい世界の設立にかかわる話なのかなーっと思っていました。読み進めていくと、ん?『ハーモニー』のラストっぽい世界になるのかな、とも思いました。
 しかしこれらの作品と違うところは、一企業とアメリカ政府が少しづつ、モデルタウンを構築し、希望者をシステムにあう人に振り分け、厳選していても、今と同じような世界はちゃんと存在していて、いずれモデルタウンのような世界になっていくかも知れないけれども、今はそうではなく、反対派も力があり、そして推進派はテロに襲われ命を落としているという事です。
 劇的な一事件で、いっせいのせい!!で世界が変わる訳ではなく、その変革の中で人々が希望を抱き、対応できずに挫折し、危機感を持ち、それでもこれが次世代の人類社会なのだと推進していく人々がいる。そんな群像劇というべきでしょうか?
 最後のエピソード『最後の息子の父親』が物語全体に厚みを与えたような気がします。それまでは反対派、もしくは反対するように考え始める人々の物語でしたが、最後に推進する立場の人々の物語が読めたので、全体的な俯瞰図が見えたような気がしました。
 ハヤカワのSF大賞受賞作品ですけど、選考者の一人である神林長平さんの「テクノロジーによって幸せになる物語がない」という感想が印象的でした。もはやテクノロジーのみで人々が幸せになったり、環境が激変する事を夢想する時代ではないという事で、テクノロジーは結局ツールの一つであり、物語は人が中心になって語られるのだろうと感じます。
 これからどんな話を書いてもらえるのか、楽しみですねぇ。