久々に読書日記

 最近論文モノを新規に読んでいなかったのですが、今読んでいるモノも含めて、なかなか興味深かったので。はい。

海賊と商人の地中海: マルタ騎士団とギリシア商人の近世海洋史

海賊と商人の地中海: マルタ騎士団とギリシア商人の近世海洋史

 十六世紀、レヴァントの海戦ののちの地中海の事を書いています。東地中海はヴェネツィアからオスマンに覇権が移ったものの、レヴァント戦で主力艦隊を失ったオスマンは、戦力としては艦隊を回復させましたが、制海権を完全回復させる事はできなかったようです。
 中世から唯一残っている修道騎士団、聖ヨハネ騎士団ロードス島からもオスマンからたたき出され、拠点を地中海の真ん中、マルタ島に移し(寄付されてようやく移せた)、それから対イスラム戦を継続していきます。そういう名称の海賊行為ですけど。
 んでイスラム船だけ狙っていたのかというと、古代から東地中海を実際に航行しているのは、イスラムよりもギリシャ人の方が多いのですよね。カトリックとは袂を別ったとはいえ、キリスト教徒です。でもマルタ騎士団はそんなギリシャ人たちの船も襲います。「船はギリシャ人が動かしているかもしれないけど、持ち主はイスラム教徒だろ?キリストの敵ぢゃん。奪っておっけー!」「なに、違う?じゃあ証明してみろよ、こんにゃろ!」
 端的に言うとそういうお話です。大変迷惑ですネ。
 ただし当時の慣習として、船や貨物の所属を明確にするのは難しかったようです。船長は船代には興味を持っても、持ち主が誰なのかなんて興味がなかったので、帳簿も結構いい加減だったらしい。
 それでも強奪された荷物の返却を求めて、マルタの海事裁判所に訴え出ます。ヴェネツィアやフランスの領事を仲介して。え?
 今日の感覚からすると領事は自国民の為に骨折る存在と思いますが、当時はフランスの領事職は売買の対象。だから見返りさえあれば口利きするなんて、もーまんたい!ヴェネツィアは自国に所属するギリシャ人やユダヤ人の為にしか動きませんでしたが。
 あと、当事者であるマルタ騎士団に拠点を置くマルタの海事裁判所に訴えるなんて、どうよ?と思いますが、当事者のお膝元だからこそ、実効性があると考えられていたようです。そして裁判所の人事権もマルタ騎士団総長にはなかったようで、ローマの教皇庁ぢゃないとあかんかったようです。
 そして当時は宗教改革華やかなりし頃。ローマ・カトリックも反撃の『反宗教改革』を展開。その切り札の一つとしてイスラム教徒の改宗を目論んでおり、その尖兵としてキリスト教ギリシャ人を使いたいローマは、結構、ギリシャ人の便宜をはかったようです。実効性はどうだろう?って感じですけど。
 世界史の主役から降りてしまった地域はなかなか研究対象にならないのですが、面白かったですネ。