ヘイトデモはアホやと思うけど

 この本を読んだ後で韓国で起きた事件を考えると、怖くなります。

犬養毅―党派に殉せず、国家に殉ず (ミネルヴァ日本評伝選)

犬養毅―党派に殉せず、国家に殉ず (ミネルヴァ日本評伝選)

 文章としては、実は好みではないです。戦前生まれの歴史齧り、歴史学者みたいな人たちは、歴史上の人物の好悪がはっきりしすぎていて、実証をあげて客観的に著述する傾向が少なく、読んでいて白けてしまうのです。この本もそういう感じで、犬養毅という人物の凄みがいまいち感じられないのです。
 あと私生活についての記述もない。家族関係は系譜を出しておしまいなところも。
 まぁ入門として読むならいいのかねぇ。
 新聞記者から政治家になった人で、どちらかというと専門は経済で保護貿易主義。政治的には大隈重信系。演説、弁舌の才能がありほとんど選挙に金をかけずに勝つ事ができる、政治家になるべくしてなったような人。
 ただあんまり細かい事を気にしない。頭の回転が速く思いやりもあるけれども、お金を集めるとかそういう事をしないので、政治家の多数派工作には向かない人。事実晩年の政党合併にいたるまで少数野党党首でした。
 問題は『犬養毅』という人の能力とかそういうところではなく、彼が殺された五・一五事件のこと。中国との講和を模索し、軍拡を抑制し軍縮を成し遂げた人物の一人であった為に、軍部から憎まれ、挙句に暗殺される訳ですが、「話せばわかる」と自室で拳銃を構える青年士官たちに落ち着いて対話を促しますが、怯んでいた士官は「問答無用、撃て!」という号令を受けて発砲。命中は二発だけで、撃たれた直後に「最近の軍人はこんな至近距離でも当てられないのか。もっと訓練しなければ」なんて発言。というエピソードではなくて、ですね、その後の犯人たちへの処罰です。
 関わった士官たちは陸軍海軍ともにいた訳ですが、実行した連中は「首相は尊敬している。だが腐敗した政治を正すためにやった」などと言い、世論も実行犯たちは忠義者だから減刑しろと主張する・・・ナニコレ?
 結果事件後、軍部の報復を恐れ、そして法律が自分たちを守ってくれない事を危惧した政治家たちは、軍部に迎合する以外の存在ではなくなり、日本は軍部ファシズムへと一気に加速する事になります。内部抗争が激しく、足の引っ張り合いでまったく非効率的な戦争機関である軍部の主導の下で、一部の人間が私腹を肥やす全体主義になっていく訳ですネ。
 最近ウェブの報道で見たのですが、韓国で九十何歳の老人が「日本統治時代良かった」という発言をし、通りかかりの酔っ払った三十代男性に殴り殺されるという事件が起きました。殺された方がどういう文脈でそんな事を言い撲殺されたのか、詳しい事は解りませんが、問題はその後の世論の方。犯人である男性への減刑を主張する声が多かったそうです。反日愛国だって。結果、禁固五年だそうですよ?
 前にも読んだ本で、戦前日本のファシズムの正統なる後継者は韓国政府ではないかと思ったのですが、今の韓国は『反日ファシズム』という世論になりそうで怖いです。反日愛国の名の下に言論が暴力的に、当局ではなく民間の手で抑圧されている事が恐ろしい。
 治安がいいとかそういう問題ではない。国の中の雰囲気というものがいずれ、ヘイトな日本との戦争を肯定する形になるのではないかと思うのです。
 五・一五事件は1932年。太平洋戦争勃発まで九年あまり。十年後、日韓戦争なんて事にならないといいのですがネ。