ちょっと変わったサスペンス

 というかミステリーというか。コレデス。

グリーン・サークル事件 (創元推理文庫)

グリーン・サークル事件 (創元推理文庫)

 イギリスの作家が1970年代に書いたもの。日本で紹介されたのは四十年近くあとという・・・もちろん作者は他界されておりますが。
 だいたいサスペンスやミステリーの主人公って、警察官、探偵、ジャーナリスト、闇商売人・・・あとは巻き込まれた庶民が展開に圧倒されつつ生き延びてハッピーエンドとなる場合が多いと思うのですよ。
 この話は中東で三代に渡って製造、海運で生きてきたビジネスマンが、何時の間やら自分の会社に過激派が入り込み、イスラエルへの攻撃作戦を練っており、出納帳の物の出入りから異常を悟った主人公が確認しに工場だか倉庫だかに行ったら、過激派の大物が絶賛作業中で、強制的に協力させられた、という展開。
 政商でもある彼はシリア政府にも通じていますが、どうも過激派の方もシリアの治安当局と通じているようで、正攻法ではどうにもならない。そこで一計を案じ、過激派が破壊活動に入る直前に首謀者を殺し計画を頓挫させたのですが・・・アメリカとかだと、主人公が真っ当な職業についている場合、表彰されるとか、友人知人から祝福されるとか、家族と無事を喜びあうとか、そういう幸せな描写になる場合が多いと思うのですよ。
 ところがこの話は違います。もともと主人公のビジネスマンも一筋縄ではいかない商売人でアラブ、イスラエル、ヨーロッパを又にかける東地中海の商人なのですが、微妙で複雑怪奇な国際情勢に輪をかけて、この人自身も複雑怪奇な性格。秘密は秘密のまま、公の事も秘密に、みたいな事をやり、また不幸な事故もあって彼は過激派に利用されたのではなく協力者ではないのか?とかそれを裏切ったのであって善意の民間人ではないのでは?とか言われ、最大の恩恵を被ったイスラエル情報当局はまったく沈黙を保って主人公を擁護してくれない。
 おかげて一族が築いた中東の商域より撤退を余儀なくされ、ヨーロッパに拠点を移さなくてはならなくる、というオチ。
 とはいえご本人も強かな商売人なので、転んでもただでは起きない、という感じで、あんまり同情とか悲壮感とかはないですね。
 作者は良く多国籍人で複雑な性格、人格の人物を主人公する事がよくあるそうで、今回の人もアルメニア人だったりギリシャ人だったり、イギリス人だったりプレイボーイだったり、マザコン経営者だったり、老獪な商人だったりしています。日本の作家だとこういう性格の登場人物は脇に立つ事が多いと思うのですけど、どうでしょう?
 なかなか面白い本でした。どれぐらいかというと、一緒に借りた本を図書館に返却したのに、こいつだけ忘れて手元にあるというぐらい・・・これってダメって感じ?(あ