文明よりも

 政治とか戦争とかに興味があったらしく、完読はしなかったですよ。

ヘレニズム文明

ヘレニズム文明

 マケドニアのアレキサンドロス三世が、アケメネス朝ペルシアを征服。その帝国を分割統治した部下とその子孫たちは、ギリシアの文化とペルシアの統治機構で約三百年間、東地中海から中東、一時期はインダス川河畔まで支配していました。
 第一世代の時代にほぼ重なる最初の数十年間を除けば、だいたいアンティゴノス朝マケドニアセレウコス朝シリア、プトレマイオス朝エジプトの三大国に分かれます。他にもアナトリアに中小国が一杯あったけど。
 著者の方はプレトマイオスを一番評価しているようです。まあほとんど波瀾なく、国家が存続したのはエジプトぐらいですからねぇ。マケドニアもシリアも、内乱や対外戦争で領土の変遷が大きく、特にセレウコス朝シリアは東西にあまりにも広大な領土を古代のあの時期に保持し続けるというのは、大変難しい。・・・という事は二百年に渡ってほぼアナトリアからインダス川まで保持し続けたアケメネス朝ペルシアって、すんげいんじゃない?
 結局この三国も含めてヘレニズム諸国はローマに征服、というか併呑、というかローマ連合体に加入、というか、そんな感じの結末を迎えるのですが、ローマスキーの塩野七生さんの文章を読んだ後、ローマはそんなに好きじゃないこの著作者の記述を読むと、大変奇妙な感じ。特にクレオパトラの評価が百八十度といっていいほど違う。
 著作者はクレオパトラを『悲劇の女王』にしたくてしょうがないって感じですが、塩野さんは「知識はあるけど知性はない」女と評価しており、大した美人ではないが、頭の回転は早くホステスとしては大変優秀だと書いてます。ただ外交官としては優秀でも為政者ではどうも・・・。
 エジプトは伝統的にローマの友好国で、特にローマに対して敵対する理由はなかったのですよね。エジプト本土と経済上の理由で島々を、防衛上の理由でパレスチナを保持していればそれでいい、という歴代王の方針からすれば、地中海の平穏はローマが海賊を駆逐したおかげで守られており、セレウコス朝シリアが滅亡し、ローマがシリアを保持しているかぎりエジプトの安全は守られている訳ですよ。
 それなのにローマの内乱に介入して、アントニウスに東地中海諸国の統治権を貰って覇を唱えるなんて、それができる軍事力はアントニウス頼みだしネ。他人のふんどしで相撲をとろうとしているようなものですよ。
 エジプトの安全に限れば頭のいい選択をしたとは、とても思えない人です。
 破れて自殺した最後は哀れを誘いますが、それを除けばよくいる失政者の一人だよねー、と思うだけです。
 なーんか、ローマ視点で見ているとヘレニズム諸国って、「何やってんだか・・・」と思える事をやらかして自滅していったという感じで、この本を読んでも否定できなかったなーっと思いましたよ。はい。