ブーリン家の姉妹
第一作が何年か前に映画化されましたね。ナタリー・ポートマンがアン・ブーリン役で出演したもの。映画は見ていないのですが史劇が好きなので読んでみました・・・全部で四部作。日本語版はそれぞれ上下巻の文庫本なので、全部で八冊でした・・・ふいー。
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一作目はイングランド国王ヘンリー八世の二番目の王妃の座を狙ったアン・ブーリンとその一族、親戚ハワード一門の暗躍と破滅。
二作目はヘンリー八世の長女である女王『ブラッディ・メアリー』がそのような恐怖の二つ名で呼ばれるまでの過程を、聖なる道化師の目から描いているもの。
三作目はヘンリー八世の次女エリザベス一世の若き日の恋と政治の打算。
四作目は時間が遡り、ヘンリー八世四番目の王妃と五番目の王妃、その顛末。
『大奥』になぞらえていますが、自分は見た事がないので想像になるのですけれど、機会さえあれば上は上級武士の娘から下は農民、商人の娘まで、将軍のお手つき、将軍生母になる可能性があった江戸時代の大奥と違い、正式な結婚をしなければ正妻になれず、正妻から生まれなければ非嫡出子という事で正式な跡継ぎになるのが難しかった中世キリスト教世界では、王妃の座を争うのは個人の力量うんぬんよりも、出身一族全てをあげての闘争になるのだなぁ、と改めて実感しました。
それから、まったく恣意的なヘンリー八世の嫁選び。最初の妃キャサリン・オブ・アラゴンからアン・ブーリンに乗り換えた時は、年老いた妃からは息子を得る事ができないから、という大義名分がありましたが、四番目の外国から迎えた妃は「気に入らない」という事で難癖をつけて排除。五番目の妃は現代からすると未成年で、老いらくの恋をし、裏切られ関係者抹殺という陰惨な結果。
スペインの『無敵』艦隊を破ったイングランドの栄光を背負う女王エリザベス一世の出身王家であるチューダー家ですが、王家としての正当性は極めて薄弱でした。父方はウェールズの郷士階級。母方に王家の血が流れているも、一度王位継承権を放棄させられている家系でした。
薔薇戦争時、当時天下を取っていたヨーク家に対抗しうる前王家ランカスターには有力な王族がおらず、拡大解釈でヘンリー・チューダーがいるぐらい。それがヨーク家のリチャード三世に勝っちゃったから、さぁ大変。甥っこをねっ殺して王位を簒奪したと見られていたリチャードへの反感を追い風に王位についたのですが、さっき言ったような理由で王位継承の根拠は薄弱。ヨーク系にはもっと有力な王位継承候補がいましたから、国は不安定。更なる内乱にならなかったのは、ぶっちやけて言えば、薔薇戦争さらに遡ればフランスとの百年戦争を通じて有力な貴族がほぼいなくなってしまったからに過ぎません。
不安定な王権を気にするチューダー家は反対者を血祭りにあげる血まみれの王家でした。エリザベス女王が『処女王』と名乗り生涯結婚しなかったのは、諸勢力のバランスの上に自分が立っており、どこかの勢力に近寄ればそのバランスが破綻するからだ、とも言われています。
そんなピリピリした雰囲気が女性視線で述べられています。最近の英語圏の作品は、こんな風に複数の視点から物語を書かれる作品が多いような気がします。たまたまかな?
でも、結構群像劇を描くには良い手法じゃないかと思います。参考にしよう。