若きハンセン氏病にかかった王

 昨日読み終えました。

十字軍物語2

十字軍物語2

 十字軍ものは何度も読んでいるのですが、題名にしたイェルサレム王ボードワン四世の事を詳しく書いたものはなかったので、ちょいと感動、彼の後を継いだギー・ド・ルジニャンの無能ぶりに幻滅しました。
 ギー・ド・ルジニャンが美男であるだけの無能というのは知っていましたが、それがボードワン四世の姉が、美男との結婚を強行したというのは知りませんでした。弟としては、こんな無能を姉婿にしたくなかったらしい。
 ボードワン四世は子供の頃から利発で責任感が強く、将来を嘱望された人だったようですが、十歳頃に当時不治の病であるハンセン氏病に罹っている事が判明。それでも若くして王位についた彼はできるだけの事をしようと、それまでの歴代の王のように十字軍国家防衛を果たしていきます。ただ、自分の健康が思わしくないので、決定的な決戦には持ち込まない形を探りながら。
 そしてイスラム側にはかの有名なサラーフ・アッディン、サラディンがエジプト、シリアを統一しつつありました。彼はまずイスラム世界における自分の地位を強化する事に専念していましたので、ボードワン四世とは衝突しませんでした。
 ところが、ここに問題児が。いや年齢から言ったらボードワン四世の親、もしかしたら祖父世代になるのに無軌道をやめない男が。「鎖を解かれた犬」とイスラム側から、もしかしたら心あるキリスト教徒側からも思われていた奴、ルノー・ド・シャティヨン。勇猛果敢な男ですが、「異教徒皆殺しだ、ひゃっはー!!」という男。王がサラディンと結んだ休戦協定なんて知らない。イスラムの巡礼を襲って皆殺しにすれば儲かるぜ、ひゃっはー!!とやらかしたんですな。
 それでもボードワン四世には頭が上がらなかったようです。サラディンにそれまでに唯一土をつけたのがボードワン四世でしたし、彼を取り立てたのも王でした。まぁ、こういう奴しか当時の十字軍国家で仕える奴がいなかったようですが。
 ただボードワン四世が若くして亡くなると、もうダメ。ギー・ド・ルジニャンとは馬があったようですが、ハッティンの戦闘ではイケイケドンドン!!でサラディンの罠にはまり、なけなしの十字軍国家戦力を殲滅させるのに大手柄!!しかし他の無能で無害な十字軍指導者は虜囚になりましたが、ルノー・ド・シャティヨンだけはサラディンが自分で殺すと宣言した言葉通り、惨殺されました。
 不治の病に冒された若き王が命削って護っていたものが、王の姉と無能な美男と『鎖を解かれた犬』に象徴される連中によって崩壊していく様が、なんともかんとも・・・
 危機に晒されても鈍感な人々が滅んでいくのは自業自得ですが、責任感からがんばる努力が報われないのは、とても虚しく無常を感じます。