『ながい旅』を読み終えて

 大変いい天気でございます。
 グイン・サーガの最新刊も読んだけど、まぁ、あれだ。ついに宗教戦争の話題に入っちゃうかもよ?というところで話が終わりました。記憶が戻りながらも失ってしまった(なんじゃそら)グインは今回主人公じゃありませんでした。栗本さんの戦争や統治方法とかシステムは・・・ごにょごにょ・・・なので、冒険活劇に徹してくれればいいと思います。
 さて、『ながい旅』です。現在もっとも手に入りやすいのは、これでしょうか?

ながい旅 (角川文庫)

ながい旅 (角川文庫)

 一応ノンフィクションです。第二次大戦中、名古屋を無差別爆撃したアメリカ空軍の爆撃機搭乗者を略式軍律会議で処刑した岡田資中将を裁く裁判の記録と、さまざまな人たちの手記を下に構成されています。
 この裁判の結果、岡田中将は略式裁判の違法性、処刑の責任を取って絞首刑になりますが、B・C級戦犯は極刑が言い渡されても後に減刑されるのが常であったのに、この方だけは絞首刑が実行されました。部下を救う為に裁判でも執拗に減刑証拠とされそうな発言を避けていたようです。
 同時に彼はアメリカ軍が日本本土で行った無差別爆撃が国際法に違反しているという事を、裁判の過程で明らかにしました。その意味で『法戦』と位置づけた彼は勝ったといえます。同時にそれは日本軍が中国各地で行った無差別爆撃の違法性も指摘した事になり、内心は複雑だったかも知れません。
 法華経に帰依し、その研究に晩年・・・というか戦後処刑されるまで没頭し、拘置所で刑の執行を待ちの悩める若人を励ましたとかなんとか。影響を受けた人々から『菩薩』と言われているようです。ご本人は布教とかまったく考えていないようで心の支え、哲学として研究していたみたいですが。
 この作品を映画化したのが『明日への遺言』なのですが、これをそのままシナリオにしても映画にならない種類のものですね。自らの命で部下を守り、更にアメリカ空軍の違法行為を証明した岡田中将の、理性的で穏やかな決意にアメリカ人の弁護人は元より、検察官、裁判長も理解を示し、質問の中で何度も減刑になる言質をとろうと努力しています。しかしそれらは記録の表には出てこないものですし、『ながい旅』でも極力抑えた描写になっています。ロンドン勤務歴のある岡田さんは英語で冗談を言ったり、公判中に婚約、結婚された自分の息子さんとその婚約者の方が随分背丈の違う方たちだったようで、傍聴にみえた二人をさしてアメリカ人も日本人も微笑ましく思ったり(この辺は実際に岡田中将の娘さんが女の子の初孫を出産させているのですが、映画ではその赤ん坊を裁判所に連れてきて場を和ませている効果を出しているみたいです・・・予告編を見る限り)。他には、終戦間際に保身を図ったとしか思えない日本の法務軍人たちへの怒りとか。
 読んでみて改めて考えた事は、戦犯だからといって一くくりに軽蔑するのも考え物だということ。それぞれがそれぞれの行動を取り、様々な理由で裁かれ、処刑されています。本当にどうしようもない軍人もいれば、岡田さんのように責務を果たした人もいます。戦犯にも等しい行為をしながら闇にまぎれて行方をくらまし、のうのうと人生を全うした人もいるでしょう。
 靖国神社の問題は、戦犯を合祀したうんぬんよりも、それを強行した神社側の行動に醜悪なものを感じてしまうので、やはりすっきりしません。リアリストであるべき軍人が冒険、空想、精神主義に陥ってしまい、それが多数派になってしまった事に、昭和初期の日本の不幸があるように思えてなりません。