読み終え損ねた・・・

 『スペイン継承戦争』という戦争は、太陽王の言われるフランスのルイ十四世が行った最後の戦争という事しか私は知りませんでした。血筋が途絶えたスペイン・ハプスブルグ家の玉座を巡って、その血脈を引くフランス王子とオーストリア・ハプスブルグの大公が王位を争った戦争なのですが、同時にヨーロッパの覇権国家になろうとしていたフランスを押さえ込む為に、イギリス・オランダ・神聖ローマ皇帝・ドイツ諸侯が同盟を組んで戦った戦争でもありました。
 意外に知らなかったのは最強の陸軍国フランスの優れた将軍たちを翻弄したのが、かのウインストン・チャーチルの先祖であるマールバラ公で、姉がジェームズ二世の愛人で、妻がアン女王の親友で、つまり女たちのスカートによって出世した印象が強い人物だったのですが、灰汁は強くともこの男が当時のイギリスの外交軍事を背負うエース的に存在なのでした。事実、マールバラは一度も負けた事がなく、機動力を駆使して相手の陣形をたくみに崩し、戦闘においては両翼に圧力を集中させ、しかるのちに薄くなった敵中央を突破させるという戦術を駆使して、最強の陸軍国を作り上げたルイ十四世の将帥たちを翻弄しました。最後の二年余りを除いて、戦場はマールバラが支配したといってもいいぐらいです。
 しかし、当時のイギリスは議会政治が始まった頃。本国は絶えず党派争いにさらされ、マールバラも首相格の盟友とともに支持基盤をあっちに変え、こっちにしてと綱渡りの議会運営をしていました。冬の休戦期にはそんな事ばかりしています。それでも妻がアン女王の信任厚かった頃はよかったのですが、彼の妻であるサラという女性は気が強くでしゃばりであり、読んでいると大変デリカシーにかけるところがあり、またアン女王も頭の回転は決して早くないけれども頑固なところがあり、この二人が不仲になると目立ったヨーロッパの『英雄』であるマールバラは足を引っ張られ、その功績にも関わらず失脚を余儀なくされます。
 一応イギリスは『スペイン継承戦争』の戦勝国で、もっとも大きな受益者になるのですが、マールバラの政敵たちが和睦を急ぎすぎ、同盟国を見捨てる形で、それも実際に戦争に参加している将兵を敵を目前にして撤退させてまで単独講和を結んでしまった為に、イギリス外交史上の大きな汚点とさえ言われています。
 しっかし、ナポレオンごときが戦争の天才なら、マールバラ公だって負けずに、いや一度も負けた事がないのだから彼の方が天才といっても過言ではないのに、ナポレオンばかりが持ち上げられるのはどうしてなんでしょうかね?やっぱり皇帝になった事と、悲劇的な最後が注目されるからですかね?
 マールバラも危機にさらされますが、せいぜいが亡命したぐらいですんだから悲劇とは思われないのかな?