雨は降りませんでした

 いや午後三時から降る予報でしたから。
 『フィガロの結婚』を読み終えました。訳者によるとモーツァルトのオペラは肝心なところが省略されていて、毒が抜かれていてつまらないそうです。
 ボーマルシュという原作者の生涯の方がよっぽど面白かったりしますがね。
 隠れプロテスタントの時計職人の息子として生まれ(ルイ14世のナントの勅令撤回で、フランスはプロテスタントの住めない国になっていた)、十四歳にして放蕩の限りを尽くし(山のような借金さえあったとか)、それから心気一転、父親に徒弟として雇われ腕のいい時計職人になります。二十ニ歳で驚くほど精巧な(ほとんど時間が狂わない)時計をつくり、宮廷時計商でフランス・アカデミーの会員に真似され、あまつさえその人の発明品として特許申請されてしまったので激怒。三ヵ月後に新聞に論陣を張り、世論を味方につけ勝利するとルイ15世の時計職人になり、王の愛人にもっとも小さい時計(指輪の石の部分が時計になっていて、その周りを回してゼンマイを巻くという仕掛け)をつくって送り、時計職人として一斉を風靡。それだけでなく当時フランス財界の立役者と懇意になり(ほとんど息子同然の待遇だったらしい)、金の使い方を覚え、年上の貴族の奥方に惚れられ、旦那が死ぬと再婚相手に選ばれ、しかも奥さんの方も数年で病死してしまうという幸運(?)に恵まれ、ついに貴族になってしまうという。
 その後もアメリカ独立戦争の影の支援者であったり、熱気球の発明者に支援したり、まぁ色々やっていますが、そういう出世願望が強いにも関わらず妙にヒューマニズムに満ち溢れ、奴隷扱いされた黒人の使用人を解放する運動に奔走したりしてます。
 フランス革命の時も保守派として動いたらしいけど、王家に近かったせいか財産も失い不遇な最後だったらしいです。『フィガロの結婚』はルイ16世に上演を禁止された貴族階級を貶す作品でしたけどね。しかし、三年かけて世論を(貴族階級を)盛り上げて上演にこぎつけ、大盛況をとったというから、アグレッシブな人ですよねぇ。アメリカ独立戦争に関わっていた時にフィガロの前作『セヴィリーヤの理髪師』を書いたというから、凄い人だ。
 『フィガロの結婚』をモーツァルト抜きで見る機会は、たぶんないかも知れませんけど、見てみたいですねぇ。