下巻だけ読了(ドヤァ

 いや、図書館の更新された予約システムについていけない老害ってだけの話で、間違えて下巻を先に予約してしまったから、先に読むことになってしまったのですがネ。

皇帝フリードリッヒ二世の生涯 下

皇帝フリードリッヒ二世の生涯 下

 中世最初の近代人。世界の脅威。そして『アンチキリスト』。そんな二つ名が飛び交う、恐らく歴代の神聖ローマ皇帝で、もっとも自分の国をローマ帝国に近づけようとした人でしょう。端的に言うなら『ローマ法』による統治。
 中世とは武装した大規模地主が、互いに難癖、捏造を繰り返して土地、財産の相続権を争っていた時代と、乱暴に言う事ができます。その争いを古代ローマ法を再興して裁判で決着をつけるようにしようとしたのが彼でした。確かに封建領主や中流階級出身の知識人を自らの高官に抜擢し、中央集権を目指しましたが、同時代に進行していたフランス王国のように、フランス王が何でもかんでも領地を貪欲に吸収していくタイプではなく、領主の私的財産は認めるが、その恣意的な支配を許さない、というものでした。
 現代に生きる者としては、何でもかんでも奪っていくフランス王よりも、フリードリヒ二世のやり方の方が穏健で肌に合うのですが、中世でもそういう人が大多数でしたが、フリードリヒは信仰の相対化、異文化の受容、そして『皇帝のものは皇帝に、神のものは神に』というキリスト教の原則に忠実な人でもありました。これが『法王は太陽、皇帝は月』と称した当時のローマ法王には気に入らなかった。
 軍事力も道義的にも劣る(皇帝の首を挿げ替える事が自由なら、王や諸侯の首なんてもっと自由にできるという論法に、世論は盲目ではなかったということ)ローマ法王の武器は『破門』であり『異端』指定でしたが、明日は我が身と思った王や諸侯には効果がなく、ならばとフリードリヒの身内、配下の切り崩しをやり、精神的にフリードリヒを追い詰めていきます。
 そしてフリードリヒは生きている間は不屈であり無敵でしたが、死した後、その優雅な後継者たちには逆境を克服する持久力、そして相手に対する『悪意』がなく、何よりフリードリヒには微塵も感じられなかった不安感がありました。『アンチキリスト』に従う不安というものですかね。
 執拗なローマ法王の攻撃によりホーエンシュタウフェン家は滅亡しますが、ローマ法王は皇帝とは別の、巨大勢力が育っている事にまったく気づいてはいませんでした。フランス王がそれです。
 フランスは平原が主で、人口は当時のヨーロッパ一。それをほぼ制圧したカペー朝のフランス王は、そしてフリードリヒと違い、信条というものがなく、有利と見れば思いがけない事を何でもやる彼は、ローマ法王を拘束し、最終的にローマ法王の権威は失墜します。強者が二人いるなら、その間でバランスをとり、主導権を握る事もできますが、強者が一人では牽制する事もできません。
 考えてみればスペインがレコンキスタを完成させるまで、単独でフランス王にできた存在はいなかったのですから(百年戦争期のイングランド王はフランス王国内の勢力と同盟を組み戦っていた)。
 政教分離の原則が確立するのは古代ローマを別にすれば近代になるまで達成できません。その為に無残に散った地中海、シチリア王国の平和、シュタウフェン家の末路を思うと、やるせなくなりますネ。