塩野さんはフランス王がお嫌い

 五月から愛知県図書館に予約していた本が、ようやく読めました。順番は三人目でした・・・一ヶ月かけて読むなら買ったらどーよ、前の順番の人。とか思ったとか思わなかったとか(マテ

十字軍物語〈3〉

十字軍物語〈3〉

 第三から最後の第八次十字軍、そして十字軍国家が滅亡するまでを描いています。リチャード三世というイングランド王は大変評判が悪い・・・というか歴史家の評価が低いです。戦争はやたら強い。しかし内政をほっぽりだし、『偉大な』親父ヘンリー二世には二度に渡って反乱を起こすし、十字軍の帰還時には自分の心無い行為のせいでオーストリア公につかまって莫大な身代金を払う羽目になるし、挙句にフランスでの戦争中、狙撃されて致命傷を負い亡くなりという。
 ところが女性の塩野七生さんの母親目線に近い視点からすると、そうでもない。母親アキテーヌのエレノアールを幽閉した父親への反抗であるし、女性には礼儀正しい。約束は守るし、戦場では合理的な思考、戦略でイスラムの英雄サラディンを向こうに回し、互角以上の勝負をします。
 翻ってフランス人にオーギュスト(尊厳王)と言われたフィリップ二世に関する事になると評価が低い。自己中心的な謀略家で、戦争には弱いのに十字軍で留守にしている諸侯の領地を蚕食し、リチャードの留守を狙って無能な弟ジョンをそそのかし火事場泥棒を働く。約束なんて自分の都合のいい事しか守らない。
 この巻にはルイ九世というフランス史上『名君』とされるもう一人の王が出てきますが、善良で真面目だが、悪賢さが求められる外交、戦争ではやらずもがなな事をしてくれた、と責めています。
 塩野さんは女性で、十字軍に命を賭けた人々に恋愛に似た感情を抱いてこの物語を書かれたのではないか、と思います。フランス人は十字軍に熱狂し、多くの人が参加し、命を落としました。・・・たくさん虐殺と略奪もしましたが。
 しかしフランス王となるとまったく振るわない。何もしないか、やらないで欲しい事をやるかしかない。それが塩野さんにしてみれば、『愛する男たち』の足を引っ張る邪魔者にも見えたのかな?と思います。
 フランスという国の歴史からすると王家がフランス王国を形成していく過程な訳で、ヨーロッパの歴史を牽引していく偉大なるフランスはここから始まった!!だからフランス王はエライ!!となるのでしょうね。
 人によって、物の見方によってその評価が変わっていくというのは、面白いよなぁ。