『まあだだよ』

 黒澤明の最後の監督作品ですが、自分が映画館のバイトしていた時かかっていたにも関わらず見ていませんでした。興行的にいまいちだったせいか、それとも当時の自分はそういう作品を見る気がなかったからか?
 今、その映画の元ネタともいうべき内田百輭の随筆を読んでいます。いや、確かにこの随筆なら映像化したくなる気持ちは解る。内田さんの本業である教師時代の教え子たちが、恩師の還暦祝いの誕生日から、還暦過ぎても生きてて良かったですネ、とそれを口実に集まりドンちゃん騒ぎをしているのです。内田さん本人も口実にして酒が飲めるのを楽しみにしているので、まったく問題ないのでしょう。
 元教え子たちは法政大学時代の人が多いようですが、これまた各界で中堅どころ、あるいは重役クラスの人間が集まり、全日空の幹部とか国鉄の幹部もいたりするので、戦後五年余りしかたっていない時期でも豪勢にやっていたようです。いや、内田さんは自分もちで返礼会をしていたようで、そちらはご自身が錬金術とおっしゃる借金で賄っていたようですけどね。
 内田さんの伝説的エピソードの一つが芸術院会員選出を「イヤダカラ、イヤダ」と言って断っているのですが、どうも候補に上がってから考えたのではなく、芸術院の制度ができて選挙制度で採用される事になってからお断りしようと考えていたらしいです。会員年金が昭和四十年代で六十万円ですから、現在の価値なら一千万弱ぐらいかもしれません。自分なら絶対受けるけどナ。
 法政大学の知り合いの教授を介してお断りした時の書付にお断りの理由があり「イヤダカラ」と書いていて、何故イヤなのかにも「イヤダカラ」と書いていて、それを三度繰り返している。それが「イヤダカラ、イヤ」という理由になったと。
 何だか、すごく楽しいなぁ。奥さんはご苦労でしょうけどネ。