皇帝カール五世とその時代

 本の題名が、そのまま日記のタイトルです。

皇帝カール五世とその時代

皇帝カール五世とその時代

 著者が著作当時八十歳過ぎの方なのですが、日本史の場合だとこの年代の方は、軍記物かぶれというか、浪漫に走るというか、忠だの仁義だの正義だの、うすら寒い言葉が連なるのですが、この方は以前にも翻訳で『三十年戦争』をものにされており、その文章が結構好きな方なので読んでいて快感でした。
 スペイン王にして神聖ローマ皇帝であったカール五世は十六世紀前半のヨーロッパにおいて欠くことのできない存在であり、その能力的な事はおいといて(決して無能ではないけど、万能できれっきれの人物でもない)、直面した問題は全ヨーロッパ的なものであり、ところが対応する財力と言えば強大と言えども中世的な規範の中にありました。
 つまり網羅的に税収を収奪するのではなく、臨時課税や個人営業的な(規模は莫大だけど)植民地経営からの収益だけで、それらの問題に対処しなければならなかったので、万事において金欠というイメージが付きまといます。まぁカール五世は陽性の性格で金策もうまくいったので、子孫のスペイン王たちのように財政破綻はしませんでしたがネ・・・なんとかね・・・
 近代、絶対王政の足音を聞きながら中世的なシステムで応対しなければならなかったというのが特徴ですかね。彼の支配する領域は絶大ですが、その入手方法は相続と婚姻であり、極めて中世的。支配組織もお察しなのですから、家産的な組織力で全ヨーロッパ問題に取り組む事の無謀さが露呈した時代でもありました。
 ライバルと言われるフランソワ一世も大概ですが、まぁカール五世の方が問題に真面目に取り組んだ方、と言えるのかな。